スマートデバイスの進化とワークスタイルの変革

多くの企業では合理化やコスト削減への取り組みが求められる一方で、経済のグローバル化や事業/雇用形態の多様化、災害/パンデミック対策における事業継続計画などの対応から、いつでもどこからでも安全・快適に利用できるITインフラストラクチャーのニースが高まっている。とくに、目まぐるしい勢いで発展するクライアント環境の技術革新によって、在宅勤務やリモートアクセスなど従業員の生産性が高まる新たなワークスタイルでの利用促進が検討されている。また、このことは、2011年の東日本大震災の発生により露呈した事業継続性という企業の課題解決にも貢献するものとして大きく期待されている。

シトリックスとマイクロソフトは、このようなIT環境の変化に柔軟に対応するデスクトップソリューション分野で市場をリードしている。今回、両社が提供するソリューションについて、話を聞いた。

インタビューア:昨今、在宅勤務の推進やリモートアクセスなどの要求など、ビジネス環境が大きく変化しています。その要因は何でしょうか?

マイクロソフト 小黒 信介 氏(小黒氏):「クラウドコンピューティングやスマートフォン、タブレットやスレートといったスマートデバイスの進展によって、「いつでも」「どこからでも」が可能となる自在なIT環境を構築することができるようになりました。このような環境は、以前にも増してスピードや効率性が求められる今日の企業でこそ大きな力を発揮し、ビジネスを変革する源泉となると考えています。なぜなら、ビジネスマンは、業務の内容や緊急度などに応じて、最もふさわしいデバイスと作業環境を選ぶ「自由」を手にすることで、各自の創造性・生産性を大きく高めることが可能になるからです。」

日本マイクロソフト株式会社 Windows本部 Windowsコマーシャルグループ プロダクトマネージャー 小黒 信介 氏

日本マイクロソフト株式会社
Windows本部
Windowsコマーシャルグループ
プロダクトマネージャー
小黒 信介 氏

インタビューア:このようなIT環境の変化に追従するために、両社はどのような取り組みをされていますか?

小黒氏:「日本マイクロソフトは、創立25周年にあたる 2011年2月に都内数箇所に分散していたオフィスを品川に集約しました。それまでも、ミーティングなど社内での移動時、社外から社内リソースへのアクセスなどを可能なかぎりフレキシブルに実現するWindowsネットワーク環境が提供されていました。しかし新しい品川オフィスでは一部の部門で、個人のデスクをなくし、社員の座席を特定しない、いわゆるシェアードオフィスの採用や在宅勤務の奨励などにより、より一段とフレキシブルな作業環境の実現が不可欠の条件になりました。

外出先や自宅などのPCから社内ネットワークに VPN (Virtual Private Network:仮想プライベート ネットワーク)で接続することは以前から可能でしたが、セキュリティのために、ICカードやリーダーデバイスが必要になるなど、過去にはとても不便な時代がありました。これに対し現在は、Windows 7 Enterprise/UltimateとWindows Server 2008 R2の組み合わせにより実現できる DirectAccessと呼ばれる新しい機能により、追加デバイスなどなくても、またVPNに接続しなくても、安全に社内ネットワークにアクセスできるようになりました。このDirectAccessでは、正しいデジタル証明書がインストールされたPCだけが社内リソースに接続可能であり、接続時には、社内のPCと同等のセキュリティポリシーが適用されます。まるで社内の無線LANに接続しているような感覚で、社外からも簡単に社内ネットワークに接続できます。自宅でも、取引先でも、どこにいても社内と変わらない作業環境が手元にあるのです。」

シトリックス はが 俊介 氏(はが氏):「当社もワールドワイドでテレワークを強力に推進しています。社員がテレワークを活用することで、それぞれの業務に適した、柔軟なワークスタイルの選択が可能になり、ストレスが軽減されてワークライフバランスが向上しています。具体的な取り組みは、定期的な在宅勤務を可能とする「Web Commuting制度」と、申請不要で外出先でも業務を行なうことができる「リモートワーク」の2つからなります。「Web Commuting制度」は、すべてもしくは一部の勤務をオフィス以外の場所で行える制度で、2009年から世界約30カ国の社員を対象に実施しています。社員は仕事に適した環境を準備し、事前に承認を得て、自宅や会社により承認された場所で業務を行っています。「リモートワーク」は全社員が対象になります。申請は不要で出張、外出時でも業務を行うことができます。また、天候不順や災害、インフルエンザのパンデミックなどによって出社が困難になった場合でも、自宅から業務を行うことができるため、災害時の事業継続性を確保しています。

これらの取り組みは、2011年に社団法人日本テレワーク協会が主催する「第11回テレワーク推進賞」において優秀賞を受賞するなど高く評価されています。」

シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社 マーケティング本部 ストラテジック アライアンス ソリューション エンゲージメント アーキテクト はが 俊介 氏

シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社
マーケティング本部
ストラテジック アライアンス
ソリューション エンゲージメント アーキテクト
はが 俊介 氏

インタビューア:マイクロソフトの具体的なソリューションについて教えてください。

小黒氏:「マイクロソフトは、様々な働き方と事業継続性を両立するクライアントソリューションである「Flexible Workstyle」を提唱しています。Flexible Workstyleは、利用者には「いつでも」「どこからでも」を実現するIT環境を、管理者にはそれを支えるスマートなIT基盤をご提供します。このようなIT基盤を支えるためには、その実現のためのテクノロジーとメソドロジーを提供しなければなりません。

「いつでも」「どこからでも」を実現するITは、複数のデバイスの配布やネットワークの整備を行うだけで実現されるものではありません。従業員が安心してそれぞれの業務に集中できるようにするためには、作業効率性にすぐれたユーザーエクスペリエンス、ファイルやアプリケーションへのセキュアかつシームレスなアクセス手段、複数のデバイスを効率よく運用管理する基盤が不可欠になります。これらを自社のセキュリティポリシーに照らしながら構築することがIT部門の新しいミッションになるわけです。」

インタビューア:これまでも社外から社内へのアクセスは可能だと思いますが、従来との違いはどのようなものでしょうか?

小黒氏:「高速インターネットや公衆無線 LAN が幅広く普及し、VPNへの接続をPCが標準的にサポートするようになった現在では、社外から社内へのネットワークアクセスを可能にすること自体はそれほど困難ではありません。ここで課題となるのは、ネットワークアクセス時の使い勝手を高めることに加えて、従業員による多様なアクセス状況を正確に掌握および管理して、情報システム全体で求められるセキュリティを確保する仕組みを確立することです。

社外から社内へのシームレスなネットワーク アクセスを実現しながら、セキュリティを同時に確保するためのソリューションとしてマイクロソフトがサポートしているのが、Windows 7 Enterprise と Windows Server 2008 R2、IPv6を組み合わせた、DirectAccessによる接続です。

DirectAccessでは、認証用IC カードのような特別なハードウェアや特別な手続きがなくても、正しいデジタル証明書がインストールされたPCで、ログオンに成功したユーザーであれば、あたかも社内の無線LANに接続するかのように、社外から社内ネットワークへのアクセスが可能になります。PCがDirectAccessを介して社内ネットワークに接続したときには、社内で適用しているのと同じセキュリティポリシーが強制的に適用され、実に手軽でありながら、社内でPCを接続しているのと変わらないセキュリティが確保されるのです。

業務を進めるには、メールやデータのやり取りのほか、電話でのコミュニケーションも欠くことができません。Microsoft Lyncを使用すればネットワークを介して音声通話できるので、オフィスにいるのと変わらずに電話でコミュニケーションすることも可能です。音声通話のほかにも、チャットやビデオ会議、アプリケーション共有など統合的なコミュニケーション ツールとして使用することができます。

会社のネットワークにアクセスしない場合は、オンラインストレージのWindows Live Skydriveが有効です。Windows Liveアカウントで利用できるので、インターネット回線さえあればどこからでもアクセスでき、大切なデータを持ち歩くリスクから解放されます。やむを得ずデータをPCに入れて持ち歩く場合でも、Windows 7 Enterpriseに標準装備されたBitLockerおよびBitLocker To Goが万一 PC を紛失した場合の情報漏えいを防ぎます。正しいパスワードなどを入力しない限り、コンピュータ システム全体が利用できず、また、ドライブ全体が暗号化されているため、ドライブを別のPCに接続して内部を読み出すこともできません。特にWindows 7 EnterpriseでサポートされるBitLocker To Goでは、PC に接続されたUSBメモリやリムーバブルハードディスクに対しても暗号化が有効になります。

さらにデスクトップ全体をWindows PC以外のさまざまなデバイスでの利用を希望するお客様も増えています。このようなお客様にはVDIも有力な選択肢となっており、マイクロソフトは、仮想デスクトップ環境に対しても最適な環境を提供しています。また、その一環として仮想デスクトップ市場のリーダーであるシトリックスと協業することで、両社の強みを生かしたソリューションをお客様に提供しています。

このようにFlexible Workstyleを活用することで、ユーザーに高い利便性を提供することができ、生産性が増します。つまり、文字どおりフレキシブルなワークスタイルが可能となるのです。」

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FLEXIBLE WORKSTYLE:社内のPCを社外から

インタビューア:管理面からはいかがでしょうか?

小黒氏:「Windows PCだけではなく、「いつでも」「どこからでも」をそのまま形にしたようなスマートフォンやスレートを業務で活用しない手はありません。しかし、紛失などのリスクも踏まえながら、組織が求めるコンプライアンスやセキュリティを維持した上で、これらの新しいスマートデバイスを安全かつ快適に活用することが重要です。そのためには管理者が重要な役割を担うことが言うまでもありません。

これまでのIT部門は、従業員が使用する多様なデバイスをサポートするために、複数のシステムを運用することで対応してきました。この手法は構築と運用に多大なコストと時間がかかる上、デバイスと所有者を正確に把握できないなど、組織内のITリソースに対する詳細なアクセス制御が困難でした。

マイクロソフトは、大量のデバイス管理を統合し、一貫した操作体系で運用管理するソフトウェア「Microsoft System Center Configuration Manager (SCCM)」を提供しています。SCCMを導入することにより、IT部門は、Windows PCやスレート等従業員が用いるさまざまなデバイスのソフトウェア、セキュリティ保護、アイデンティティ管理を統合的に行い、各デバイスの状況を可視化してセキュリティやコンプライアンスに対処することが可能です。これまで多大な手間を要していた大量のデバイスへのアップデートやセキュリティパッチの配布も容易に行えるようになり、運用管理にかかるコストと労力を大幅に軽減します。さらに次期バージョンでは、非Windowsデバイスの管理までも行うことができるようになります。加えて、VDI環境の管理も、物理環境と一元的に行えるのがSCCMの大きなポイントといえます。

SCCMは、ユーザーセントリックな管理モデルに基づいており、各デバイスとそれを利用するユーザーの関連づけを明確にした上で、正確なアクセス制御やユーザー認証をサポートし、詳細な管理ログやレポートを取得することができます。

システム管理者はSCCMを用いて、各デバイスおよび従業員のロール(役割)に基づく自社のデータ運用ポリシーを、自動的にITインフラ全体に適用させることができます。このアプリケーションプロビジョニングポリシーの仕組みによって、IT部門はデバイスやロールごとに自動調節され、アプリケーションやデータへのアクセス制御を容易に実現できるようになります。さらに、SCCMでは、自社のネットワークに、どの従業員が、どのデバイスから、どのぐらいの時間アクセスしているかを通知するレポート機能も提供されており、安全で確実なシステムの運用管理を支えます。」

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FLEXIBLE WORKSTYLE:統合されたデバイス管理

インタビューア:それでは次に、シトリックスのソリューションについて教えてください。

はが氏:「シトリックスは仮想化技術を駆使した新時代のデスクトップ環境である「VDIソリューション」を提唱しています。VDIソリューションは、デスクトップ環境をサービスとして提供するものです。具体的には、OS(ディスクイメージ)、アプリケーション、ユーザープロファイルといったユーザーのPC環境をサーバー側で集中管理し、オンデマンドにデスクトップ環境を構築します。そして、ユーザーに最も適した方法で、高品位なユーザーエクスペリエンスを実現しながら提供します。これにより、ユーザーのワークスタイルやデバイスに左右されることなく、常に同じデスクトップ環境を提供することができます。また、ユーザー設定やデータを含むデスクトップのライフサイクルを通した集中管理により、俊敏な展開と強固なセキュリティを実現します。

実際にシトリックスが自社導入している「Web Commuting制度」や「リモートワーク」は、自社のデスクトップ仮想化ソリューションである「Citrix XenDesktop」で実現されており、外部から社内システムへのセキュアなアクセスを実現しています。「いつでも」、「どこからでも」、オフィスにいる時と同様のデスクトップ環境で業務を行えるため、高い生産性を維持し、社員、会社の双方に大きなメリットをもたらすことは自社の導入においても証明されています。

また、シトリックスとマイクロソフトは共同でVDIソリューションを推進しており、使い慣れたWindows PCに最適化されたVDIソリューションを低コストで活用することができます。」

インタビューア:シトリックスのVDIソリューションが優れているポイントは何でしょうか?

はが氏:「VDIソリューションの優れたポイントは使い慣れたWindowsデスクトップ環境をWindows PCだけではなく、スマートフォンやスレートなどのスマートデバイス上で活用できることです。自宅にいても、出張先にいても、ユーザーは同じデスクトップ環境で作業することができるため利便性が高まります。また、アプリケーションやデータはすべてサーバー上で管理されているため、セキュリティの面でも効果的です。

しかし、在宅勤務やリモートアクセスではネットワークの回線の品質がパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があります。社内ではLANのギガイット化など高速化の恩恵を受けていますが、リモート環境では3G回線や通常のインターネット環境の回線に依存しています。このため、仮想デスクトップ環境では、回線の利用効率がもっとも大きな課題となるのです。」

インタビューア:その課題はどのように克服できるのでしょうか?

はが氏:「シトリックスのVDIソリューションの核となる製品がCitrix XenDesktopです。XenDesktopには最適な仮想デスクトップ環境構築のためのキーをなるテクノロジーが2つ搭載されています。その1つが「Citrix HDXテクノロジー」です。HDXテクノロジーは、低帯域ネットワークやWAN環境に関わらずあらゆるネットワークにおいて、優れたユーザーエクスペリエンスの配信技術やパフォーマンス最適化機能を提供します。これにより、最適化されたグラフィックス、マルチメディアコンテンツから、高品位のWebカメラ、広範な種類のUSBデバイスのサポート、高速印刷に至るまでの各分野で、ローカルPCに匹敵するリッチで完全なユーザーエクスペリエンスを提供します。もう1つのテクノロジーが「Citrix FlexCastテクノロジー」です。FlexCastテクノロジーは、ユーザーが、どこにいても、どのような端末を使用していても、企業におけるユーザーそれぞれの職種に応じた最適な仮想デスクトップやアプリケーションを提供します。これにより、セキュアで高パフォーマンスの仮想デスクトップ環境を実現することができます。」

インタビューア:VDIソリューションを導入する企業の具体的なメリットは何でしょうか?

はが氏:「たとえばデスクトップ仮想化のメリットの1つとして、Windows 7へのアップグレードの容易性が挙げられます。Windows 7は企業に優れたユーザーエクスペリエンスをもたらし、生産性向上に貢献します。しかし、企業が導入しているPCをWindows 7にアップグレードするのは、多くのコストがかかります。VDIソリューションを活用すれば、多くの工数が発生する作業を削減することができ、Windows 7の早期導入が可能となります。

また、デスクトップ仮想化によるWindows 7の導入の場合、各デスクトップ環境がサーバー環境に構築されるため、各PCへのインストールや設定作業は必要ありません。さらに、運用に関しては一元管理が可能となり、コストを大幅に削減できます。また、クライアント環境にファイルを保存できないような設定をすることにより情報漏洩防止にも大きな貢献をすることになります。もちろん、スレートのようなスマートデバイス上でもWindows 7が動作するため、さまざまなシーンに応じたデスクトップ環境の利用が可能です。このように企業においてWindows 7へのアップグレードの選択肢としてデスクトップ仮想化は一つの現実解として注目を集めているのです。」

インタビューア:今後の両社の取り組みを教えてください。

小黒氏:「マイクロソフトとしては、Flexible Workstyleをさらに推進し、クラウドコンピューティングと融合した新しいクライアント環境を積極的に提案していきます。VDIソリューションではシトリックスと引き続き協業し、ユーザーに最適なデスクトップ環境を提供していきます。」

はが氏:「シトリックスもCitrix XenDesktopを核とするVDIソリューションに引き続き投資し、さらなる技術革新に努めます。とくにマイクロソフトとの協業では多くの企業でデファクトスタンダードとなっているWindowsのデスクトップ環境の仮想化により、優れたユーザーエクスペリエンスを低コストで提供し、ワークスタイルに変革をもたらしていきます。」

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シトリックス はが 俊介 氏(写真左)とマイクロソフト 小黒 信介 氏(写真右)

インタビューア:ありがとうございました。

デスクトップ環境のリーダーであるマイクロソフト、そしてデスクトップ仮想化のリーダーであるシトリックス。両社はともにワークスタイルの変革によって、企業の生産性を飛躍的に向上するテクノロジーを提供することで一致している。両社の今後の展開に大きく期待したい。