情報システム担当者 インタビュー:ビジネスの継続性のためにしてきたこと、そしてその評価

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震をはじめとする東日本大震災。いまだにその余波は、日本中を飲み込んでいます。被災された方々には、心よりお見舞い申し上げます。

編集部では、今回の震災をうけて事業継続において重要な要素である”情報システム”のあり方に関してお伝えするため、シトリックス・システムズ・ジャパンのITサービスにお伺いし震災時における情報システム部門の取り組みに関してインタビューを実施しました。

シトリックスシステムズジャパン株式会社

シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社
IT Services
小林氏

インタビューア: 具体的なお仕事の内容を含めまして、自己紹介をお願いできますか?

小林様:
シトリックス・システムズ・ジャパンでIT Servicesに所属しています小林です。
IT Servicesとは、一般的な日本企業の情報システム部門ということになります。現在、シトリックスでは170名ほどの社員が在籍していますが、私を含めて2名で日々のヘルプデスク業務やグローバルで展開されるシステムの日本展開、さらには日本の商習慣にあった機能の実装などを行っています。

 

インタビューア: たった2名というのは少ないのでは?

小林様:
弊社は、ご存じの通りグローバル企業ですので、全てのシステムは世界3拠点のデータセンターで運用されています。アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアにそれぞれのデータセンターがあり、日本のほぼ全てのシステムはオーストラリアのデータセンターで専門人員により運営されています。
プリントサーバーなど数台が日本にあるくらいです。また、社員はサーバー集約されたシステムをクライアントからアクセスして日々の業務を遂行しています。

インタビューア: 今回のような災害時の行動指針のようなものはあるのですか?

小林様:
弊社には、BCM(事業継続管理)チームが存在します。私も参画していますが、このチームは経理や人事など各部門の代表から構成されます。有事の際には、BCMチームがリーダーシップをとり、派遣・契約社員も含んだ全従業員と、来社されていたお客様の安全確保を何よりも優先して行います。
これらはアメリカ本社のBCP(事業継続計画)を基に日本国内でもマニュアル化されています。ただ、もともとは米国本社のBCPは主にハリケーンを想定しているものだったのですが、ご承知のとおり日本とアメリカでは土地・気象条件も全く違いますし、なにより地震が非常に多い国ですので、そのまま流用することはできません。
そういう意味では日本独自のBCPということにもなりますが、本社の理解も得られています。また、2009年新型インフルエンザが流行する前から、弊社ではH5N1型を想定したパンデミック対策にも力を入れてきました。これらのBCPは常に最新の情報を取り入れつつ、日々改定を行っています。

インタビューア: 今回、震災が発生しましたが、その時の状況などお知らせいただけますか?

小林様:
弊社では、弊社の拠点がある東京と大阪で震度5強以上の地震があった際には、外部委託している安否確認サービスにより、全従業員の携帯電話もしくはPCのEmailへ安否確認メールが自動的に配信されます。そして、各従業員のメール開封状況や、そのメール内の選択肢を選択することによって送信される従業員毎の状況報告がサーバーに蓄積されていき、その情報をもとに社員の安全を確認します。
ただ今回は、発動の閾値を超える規模の地震が連続して複数回起きてしまったり、携帯電話自体も想定以上に輻輳や遅延が発生してしまったり等の複合的な要因で確認には時間がかかりました。

インタビューア: システム部門としては何をされましたか?

小林様:
いわゆる社内インフラ全般、具体的には、電気とネットワーク・電話などの通信回線と機器類、そして、もともと東京オフィス内には少数しかありませんでしたが、サーバー類がすべて正常に稼働しているかどうかの確認をしました。その他、本来はシステム部門の範疇ではありませんが、BCMチームのファシリティ担当と連携し、エレベーターや水道の給排水などのビル機能の確認も行いました。
弊社の場合、これらの初動は私、もしくはシステム部門がやるというよりもBCMチーム、もしくは米国本社やAPACも含めてCitrix WorldWide全体でカバーできるように準備をしています。なぜなら、当然のことながら、私や他のBCMチームのメンバーが被災してしまい身動きがとれなくなるリスクもあるからです。また、仮に深夜や休日など営業時間外に震災が起きた場合は、たとえ怪我がなかったとしても、直ちに担当者が出社して被害状況を確認することは困難でしょうから、その場合は本社などからリモートによる診断を行ってもらわなければなりません。

インタビューア: その後、業務は継続されたのですか?

小林様:
地震発生時、弊社の社長と副社長はお客様訪問のため関西へ出張していましたので、二人の安否確認をすると同時に、当面における現場対応を東京のBCMチームに一任してもらいました。もちろん重要事項はメールで最終判断を仰ぐことになります。幸いなことに弊社のシステムには不具合もなく、そのまま業務を継続することも可能でしたが、従業員安全確保の観点と、おそらく電話の輻輳などの要因もあってかお客様からのお電話もない状態だったこと等も考慮して、16時にビジネスクローズをしました。
ただ、その時点でビルにも大きな損傷がないことは確認済みでしたし、東京オフィスは千代田区=「地区内残留地区」にあるため、家族のためなどに急いで帰る必要がなければ、日没も近いし、当面は社内に残った方が安全だという話はしました。その為か、交通網が復旧して自分が帰れるようになる状況になるまで、メールなどで業務を継続している社員もいました。

インタビューア:社員への対応はいかがでしたか?

小林様:
一般的なBCPとして、会社から自宅まで10KM以上距離がある方は帰宅困難者という扱いで考えなければなりません。今回も16時にビジネスクローズをしたとは言え、各交通機関もマヒ状態でしたので、弊社でも当初は40〜50名ほどの帰宅困難者が発生しました。弊社では水や乾パン、懐中電灯などが入った避難袋を全従業員に配布していますので、必要な場合はまずそれを使うように指示しました。
また、今回は利用しませんでしたが、停電した場合に備えて、非常用ライトやラジオ、アルミブランケットなどの備蓄品の開放準備もしました。また、セミナーで来社されていて帰宅困難となってしまったお客様もいらっしゃいましたので、些少ですが、飲料や簡易的な食料、仮眠ができるような会議室をご提供させていただきました。21時頃から最寄り路線の銀座線が運転を再開したので帰宅の途に就き始める社員も増えましたが、それでも10名程度が翌朝のJRの運転再開まで社内に残らざるを得ない状況になりました。最終的には、翌土曜日の午前8時頃に人事マネージャーと共に全員の退出を確認して、オフィスをクローズし、帰宅しました。

インタビューア:その後は、いかがでしたか?

小林様:
帰宅後すぐに、BCMチームが電話会議やGoToMeetingを使いながら対策会議を行いました。そして、余震や停電、家族の保護など不安要素もたくさんありましたので、全社員への在宅勤務を推奨するアナウンスを実施しました。

※GoToMeetingとは、シトリックス社が提供するサービスで遠隔地からWeb上で会議を実現するクラウドアプリケーションです。現在、シトリックス社ではこのような状況を鑑みて6月末までの登録者に限り1年間無償でこのサービスを提供することを発表しています。
詳しくは以下をご覧ください。

http://www.citrix.co.jp/company/disasterrelief/gotooffer.html

インタビューア:ビジネスは継続できましたか?また社員のサポートなど忙しかったのではないですか?

小林様:
月曜日は20名程度の社員が出社していました。それ以外の社員は、すべて自宅で作業をしていました。弊社は、デスクトップ仮想化を実現するXenDesktopを普段から使っています。社員のデスクトップ環境はすべてオーストラリアのデータセンターにあり、そこにアクセスすれば自宅の個人所有のパソコンからでも、日常利用しているものと全く同じデスクトップ環境で仕事を行うことができます。
余震や停電による交通網の乱れ、お客様の営業状況などの要因を総合的に判断し、その週の後半は全従業員が在宅勤務を基本する勤務体系へと変更しましたが、弊社では平時から在宅勤務自体が利用できる制度がありましたし、会社からでも自宅からでもほぼ変わらない使い方でシステムにアクセスすることができましたので、ユーザーからヘルプデスクへの使い方の問い合わせなどの混乱もさほどなく、ビジネスもほぼ通常通り継続できたものと思っています。

インタビューア:システム部門としても一安心ですね。何か有事の際に重要だと思うことはありますか?

小林様:
はい、有事の際に緊急のサーバーを立てたり、別システムに切り替えるなどの対策をBCPとして採られている所も多いかと思いますが、それらはどうしてもユーザーに普段と違うオペレーションを強いることになりますので、利用手順を再周知する手間があったり、ユーザーからの問い合わせなどでヘルプデスクの対応がパンク状態になると思います。個人的にはただでさえ混乱する状況の中で、システム管理者にとっては大きな負担増になることは間違いないだろうと思います。
弊社の場合は普段どおりのオペレーションで使うだけなので、ユーザーからの問い合わせも想定していたよりもずっと少なかったです。もし、口頭で説明するのが難しい問い合わせがあったとしても、弊社のGoToAssistを使えば、ユーザー側のPCの画面を管理者側で操作してリモートでトラブルシュートが可能なので、在宅勤務などのようにユーザーとシステム管理者双方が自宅にいてもサポートすることが可能です。

インタビューア:グローバル部門や本社との連携はいかがでしたか?

小林様:
私の本来の所属部署であるIT部門との連携は当然ですが、グローバルのBCMチームとも連携を密にしていました。特に米国本社から見た場合、三陸地方や福島と東京との距離感がわからないこともあって、地震だけでなく、原発事故に関してもかなりナーバスになっていました。我々も、最悪の事態を想定したプランの準備も進めつつも、GoToMeetingなどを使い、地図を表示し説明したりと現状を細かく説明したりした結果、当面はこのまま様子を見ようという結論になりました。特に原発問題は、日本政府と米国政府が自国民に対して公表している見解の違いや、各種報道などで提供されているデータ等を毎日分析し、会社としての判断をどうすべきかの検討を重ねました。そして、毎日定時に社員へ状況のアップデートや会社としての対策をメールで送り、できるだけ「会社が何か対策を考えているのかどうかわからない」という不安を取り除くように心がけました。現在は当時よりだいぶ状況が落ち着きつつありますが、情報収集は継続しています。

インタビューア:もともとはBCPを考慮しデータセンターへ集約をしたのですか?

小林様:
いいえ、元々はコスト削減が目的でした。それぞれの国でシステムを抱えると人的コストや物理的コスト、および維持管理にかかる保守費用など大変な金額になりますが、それらを各拠点に集中させ、効果的に資本を投資し、仕様の統一化なども行えばコスト減だけではないメリットも生まれます。弊社ではまずXenAppを5年前からオーストラリアのデータセンターから利用する形態にしました。現在ではXenAppによるアプリケーションの仮想化だけでなく、XenDesktopによるデスクトップ仮想化、そしてバックエンド側ではXenServerによるサーバーの仮想化などにより、コストメリットもさらに大きくなっていると思います。今回はそれらをそのままBCPという観点においても効果的に活用することができた、と実感しています。

インタビューア:もしオーストラリアのデータセンターがダメージを受けたらどうなるのですか?

小林様:
冒頭に申しあげました通り、3箇所にデータセンターを配置しています。それぞれのデータセンターへフェールオーバーすれば良いのです。まさにクラウド環境ということになります。また、グローバル企業の利点ですが、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアで8時間ごとに運用スタッフが常に働いていることになります。それぞれの地域のスタッフが違うリージョンの世話を行う体制もできているのです。

インタビューア:有事に強い情報システムの在り方を理解できました。ありがとうございました。

小林様:
少しでも災害に強いシステムのヒントをお伝えできたら幸いです。ありがとうございました。