業界別に見る デスクトップ仮想化による課題解決

デスクトップ仮想化導入のガイドライン【第3回】

基本的に多様な適応シナリオがあるデスクトップ仮想化ソリューションだが、各業界におけるビジネス環境、業態を踏まえると典型的な適用例を容易に想像できる。本稿では、代表的な業界(金融、製造、流通・小売り、社会基盤)における適用例を解説する。デスクトップ仮想化を皆さまのビジネスシーンに適用するためのヒントとしていただきたい。

金融業界

営業力の強化

金融業界の営業職は地理的に分散した多くの顧客を訪問し、多岐にわたるニーズを満たすために個別対応や個別提案を行う。機密情報を扱う関係上、PCの持ち出しが難しく、営業活動で発生した事務処理を行うためには、会社に戻って作業をするといったオペレーションが一般的である。ここに生産性を改善させる余地が大きく残っている。デスクトップ仮想化を利用することで、いつ、どの顧客先にいて、どんなデバイスを持っていても社内情報にセキュアにアクセスし、提案や対応ができるようになる。この営業活動の生産性向上は事前に効果が見えにくいが、実際の導入事例などからも大きな効果(営業売り上げの成長)が明らかになっている。

このようにデスクトップ仮想化は、モバイル活用も含めてビジネスのモバイル化を実現する。ビジネスをモバイル化させるというとアプリケーションをモバイルに対応させたり、モバイルデバイスを管理するといった話になりがちだが、本質的にはアプリケーション環境をモバイル端末でセキュアに利用できるようにすることだ。この観点から、デスクトップやアプリケーションをセキュアに配信できるデスクトップ仮想化は、ビジネスをモバイル化するための本質的な解を提供するソリューションなのだ。

企業合併・買収における業務の統廃合

企業競争の激化やビジネスサイクルの短縮化によって、企業合併や買収が頻繁に行われている昨今。金融業界も合併、買収が頻繁に行われてきた。合併や買収が行われる際には、組織の統合やシステム、アプリケーションと密接につながっている業務の統廃合が行われる。ここで問題になるのは、企業間で異なるシステムが導入されており、業務で利用するアプリケーションや端末環境に差異がある点だ。多くの異種端末や異種アプリケーションを把握・整理して業務を統合・標準化していくためには、膨大な時間とコストを要する。しかも、ビジネスサイドの要求するスピードに追従できなければならない。

こういった事態に備え、デスクトップ、アプリケーションを仮想化しておくことは非常に有効である。組織やユーザーが利用するアプリケーションが変わっても柔軟かつ迅速にデスクトップ、アプリケーションをデプロイできる。各ユーザー(グループ、組織など)とアプリケーションをひも付けするだけで、瞬時にデプロイできるのである。こうした柔軟性は、経営の視点でも重要だといえる。

情報漏えい対策

金融業界は、機密性の高い情報を扱うことからセキュリティに対して非常にシビアな業界といえる。既に述べてきたがデスクトップ仮想化は端末にデータを保存できない仕組みを実現するため、情報漏えい対策として有効である。セキュリティ要件の高い金融業界が他の業界に先駆けてデスクトップ仮想化を導入しているのはこのゆえんだ。ちなみに、端末はPCではなくシンクライアントを導入するケースが多い。

また、コスト削減のために一部の業務を海外の企業に業務委託するケースも非常に多い。ただし、管理性の問題から、海外のデータセンターに情報を保管することは避けたい。そこで、国内のデータセンターにデスクトップやアプリケーションとともにデータを保管すれば、画面転送方式で海外の企業に業務を委託することが可能だ。データは海外の端末に保存されることなくセキュリティを維持してコスト削減を実現するのである。

成功事例

【北國銀行】顧客目線のサービス向上とセキュリティ強化を両立
タブレット端末を用いたモバイルワークで、顧客訪問の活性化と効率化によるサービス向上に寄与。端末に顧客情報を残さないことでセキュリティリスク低減も実現した事例。

製造業

海外展開・販売流通拠点の展開

製造業はグローバル競争が激しい業界の1つだ。材料や労働力を安価に手に入れるため、新興国に工場や拠点を配置し、収益の多くを確保している。つまり、生存競争のため、海外展開を前提とした業界構造になっているのだ。この構造のため、世界中に分散した拠点で多数の業務デスクトップ、アプリケーションが動作している。従って多くの製造業では、これらの環境のセキュリティを確保した上で効率的に管理することが課題となる。この課題も既に金融業界のケースで解説したように、国内データセンターでデータをデスクトップ/アプリケーションを一元管理することによって解決できる。

また、拠点展開のスピードは競争優位性を維持するための重要な要素だ。こうした迅速な拠点展開にもデスクトップ仮想化は有用な仕組みだといえる。

設計・開発業務の効率化とデータの保護

製造業には、ものづくりに必要な設計・開発のプロセスがある。このプロセスは製品そのものの競争優位に大きな影響を与える重要なものだ。昨今、このプロセスを改善して、グローバルでノウハウや人的リソースを調達し、質の高い開発もしくはコストパフォーマンスの高い開発へのチャレンジが行われている。また、より広範囲の組織で設計情報を共有して共同開発、情報伝達を行うことで製品開発のサイクルをもっと短縮化しマーケットニーズに追従できる形態を追及している。ただし、これらに共通して課題となるのは、データをいかにして保護するかということである。製造業にとっては競争優位に必要不可欠な重要なデータを保護、維持しなければビジネスが成立しない。そこでデスクトップ仮想化を使う。データを自国のデータセンターに保持すれば、グローバルの拠点・組織から安全に設計・開発業務を遂行させることができる。

また、従来は分散した各PC上で設計・開発業務が行われてきたため、分散したデータを集約したり統合する際には、ネットワークに非常に大きなデータ転送が必要だった。そのため、転送時間やネットワークコストに配慮が必要だったが、デスクトップ仮想化を利用すればそういった課題も解消することができる。

成功事例

【日立製作所】国内最大規模8万ユーザのデスクトップ仮想化
グローバル競争力向上のために、セキュリティを備えたワークスタイル変革を推進。モバイルワークを含めた変革により30%の業務効率化を実現した事例。

流通・小売業・社会基盤

店舗端末の展開・管理

流通・小売業・社会基盤(ユーティリティ)の業務形態における共通点は、多数の店舗や拠点が地理的に分散しているという点にある。上記で述べてきたように、多数の拠点が地理的に分散していることで、デスクトップ仮想化の効果が期待できる。

流通・小売業では、いわゆる店舗系の端末のセキュリティと管理負荷が課題となっている。一般に、多数の店舗で端末を使用することとその管理性の間にはトレードオフがあるが、デスクトップ仮想化では、店舗サイドの端末のケアは不要になる上に、セキュリティも担保される。

店舗管理業務の効率化

流通・小売業では店舗の経営指導を中心とした店舗管理業務が行われている。特に昨今では、全ての店舗で画一的な商品の品ぞろえやサービスを展開するだけでなく、その地域の顧客層に合わせて商品やサービスを最適化する店舗経営が求められている。この管理は、本部の担当者が各店舗を回り指導する。その上でオフィスに戻って必要な処理を行うのが一般的だ。既に述べたがデスクトップ仮想化によってオフィスに戻る必要はなくなる。これは金融業界の営業の例と同様に生産性向上が実現でき、さらには業務(この場合は経営指導)の質の向上につながっていくのだろう。

成功事例

【ローソン】1600台のタブレット端末でモバイルワークを実現
スーパーバイザーのモバイルワークを実現したことで、オフィスへの出社回数を減らして、本業の店舗経営指導に専念できる体制を構築した事例。