【レポート】中小企業のためのVDI講座(1)仮想デスクトップ環境って何?

例えば、休日に急遽、自宅で仕事をしなければならなくなったとしよう。そのようなケースでは、おそらくドキュメントやメールの参照が必要になる。しかし、データのほとんどは会社のPCや共有サーバの中にしかない。そのとき皆さんが思うのは、きっと「会社のリソースにアクセスできれば」ということだろう――。

こうしたニーズは以前から強くあり、すでに対応テクノロジーもさまざまなものが存在する。そうした中、ここ数年特に注目を集めている技術が「仮想デスクトップ環境(VDI : Virtual Desktop Infrastructure)」だ。

改めて、仮想デスクトップ環境って何?

 

Citrix竹内氏

シトリックス・システムズ・ジャパン マーケティング本部
プロダクトマーケティング シニアマネージャー
竹内裕治氏

VDIとは、通常はPC内に構築されるデスクトップ環境をサーバ側に設置し、ネットワークを介して表示/操作できるようにした技術。通信には専用のプロトコルが使用され、ストレスなく操作が行えるよう工夫されている。

基本的な処理はサーバ側で実行し、クライアント側では表示のみを行う仕組みだが、動画の再生はもちろん、製品によってはCADのような大きなデータもスムーズに扱うこともできる。ユーザーは実際のPCとの違いをほとんど意識することなく利用することが可能だ。

VDIを導入すると、ユーザーはネットワークにつながった端末さえあれば、どこにいても自分のデスクトップ環境を呼び出せるようになる。デスクトップ環境がPCから切り離され、純粋にユーザーに帰属するイメージだ。当然、冒頭のような突発的な自宅作業で悩まされることもない。

VDIのソリューションベンダーとして業界を牽引する立場にあるシトリックス・システムズ・ジャパンのマーケティング本部 プロダクトマーケティング シニアマネージャー 竹内裕治氏は次のように語る。

「仮想デスクトップは、仕事に機動性をもたらす。オフィスでも出先でも自宅でも同じ環境で作業ができるため、テレワーク/ノマドワークも実現できるし、災害時の事業継続マネジメント(BCM : Business Continuity Management)にも役立つ。働き方を柔軟にし、働きやすい環境を実現する環境と言える」

大企業を中心にすでに数多く導入されている同技術に関しては、さまざまな分野で効果があがっているという。もっとも高いのはやはり「外出する機会の多い営業社員」(竹内氏)。外出先で作業ができるため、アポイントメントの合間にわざわざオフィスに戻る必要がない。モバイル端末から利用できるVDI製品もあるため、電車で移動中に資料を確認し、修正するといったことも可能だ。

また、竹内氏は、「育児休暇中の社員のブランクを埋めるうえでも有効」と語る。育児期間中は家を離れるのが難しいが、VDIが導入されていれば、自宅からでも会社のデスクトップ環境にアクセスできる。隙間時間をうまく利用するなど、在宅で柔軟な働き方ができるので業務への影響を最小限にしながら、勤務を継続することが可能だ。

加えて、VDIは災害対策としても機能する。しかも、「特別な準備をしなくても災害対策と有効」(竹内氏)だ。「災害時向けの専用システムを用意していても、いざ必要となった時にうまく動かなかったり、ユーザーが慣れていないためにまったく使われなかったりという話は珍しくない。VDIであれば、使い慣れた環境がそのまま災害時にも使えるので、何の支障もなく業務を継続できるはず」(竹内氏)。

 

システム管理者の利点1 – 保守作業の大幅効率化

さて、以上はユーザー視点で見たVDIのメリットだが、同技術に関しては、システム管理の観点からも多くの利点が挙げられる。というよりも、むしろこちらのほうが中心と言える。以下、いくつか紹介しよう。

もっともわかりやすいのは、保守作業の効率化だろう。大企業のように数千、数万といった単位でなくても、数十人、数百人と社員がいれば、「各従業員の端末に対してセットアップ作業を行うのはかなりの労力を要する」(竹内氏)。まとまった数の端末が同時にリース切れを迎えた際などは大仕事になってしまうはずだ。もちろん、リースを利用しているのであれば、この大仕事が数年サイクルでやってくる。一度経験した方なら、「この呪縛から解放されたい」と願うのが普通だろう。

対して、VDIが導入されている環境であれば、セットアップ作業は、サーバ側で標準設定のデスクトップ環境を1つ作り、そこから人数分のコピーを生成するだけ。しかも、「一度導入してしまえば、ユーザーはハードウェアの事情に左右されることなく使い続けることができる」(竹内氏)。ユーザーから問い合わせがあった際も、ユーザーの席まで行かずとも各々のデスクトップ環境を確認できるため、管理作業に費やす時間は大幅に削減されるはずだ。

実のところ、こうした管理作業の効率化を意識したサーバ集約技術はVDIが初めてではない。以前から「シンクライント」と呼ばれるソリューションが提供され、さまざまな企業で導入されてきたが、「残念ながら、思っていたような効果が表れず、普及するまでに至らなかった」(竹内氏)という。その原因は、「管理者の業務を楽にする機能があったものの、ユーザーの利便性が確保できなかったこと」(竹内氏)にあるようだ。

「シンクライアントシステムの多くは、専用クライアント端末が必要なうえ、そのコストがユーザー企業の期待額よりも高く利用範囲が一部の業務に限られてしまっていた。しかし、VDIでは、社内の大多数のユーザーがメリットを享受できる。導入効果が大きく、これからの普及が見込まれる技術と言える」(竹内氏)

システム管理者の利点2 – コスト削減

さらに、こうした作業の効率化は、運用コストの削減という効果ももたらす。単純にセットアップ作業に要する人員を減らせるだけでなく、社内運用ポリシーに反したユーザーを見つけることも簡単で、わざわざネットワーク上に”網”を張ったりする必要もない。

また、現在、多く企業では、「OSのバージョンアップに合わせてPCも刷新するというのが一般的」(竹内氏)だが、仮想デスクトップ環境であればPCとOSを切り離して運用できるため、「OSのリリースサイクルに縛られることなく、長期間にわたってPCを使い続けることが可能」(竹内氏)だ。

こうしたコスト削減効果について、シトリックスでは具体的に試算も行っている。

「VDI導入時にはサーバやストレージの購入、ネットワークの増強などで初期コストが大きくなるケースもあるが、そのような場合も概ね3年程度で回収できる。大企業のみならず、中小企業においても十分に効果が見込める技術と言える」(竹内氏)。

 

Citrix竹内氏

 

システム管理者の利点3 – セキュリティ強化

もう1つ、管理面で見逃せない特徴がセキュリティである。

最近では、「BYOD(Bring Your Own Device)」というキーワードが新聞紙面を騒がしている。これは、社員の私用端末(ノートPCやタブレット端末など)を業務で利用することを指す言葉で、特に予算の限られる中小企業においては今後、採用するケースも増えていくだろう。

ただし、デメリットもある。企業側で購入する端末が減り、コスト削減につながるというメリットがある一方で、業務データが個人の端末に残る可能性があるため、端末を紛失してしまった場合に、情報漏えいにつながるというリスクもはらんでいるのだ。

こうした問題に対して有効なのがVDIである。VDIであれば、データが端末に保存されることがないため、端末を紛失した際も情報漏えいを心配する必要がない。それどころか、「データはすべてサーバ側に保持されているため、端末さえ用意できれば、以前と同じ環境がすぐに手に入る。改めて資料を作り直すなどの作業を強いられることもない」(竹内氏)。

 

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以上のように多くのメリットをもたらすVDIだが、現在のところ、導入しているのは大企業がほとんどである。

管理の効率化や初期導入コストの関係からこうした状況になっているようだが、最近では中小企業を意識したソリューションも提供されている。では、中小企業が導入する際には、どのような点に注意するべきなのか。次回は具体的に製品名も挙げながら、ポイントを紹介していく予定だ。